インタビュー INTERVIEW
「安定性試験」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
医薬品の品質を検証する、世の中になくてはならない仕事の一つだ。
ニッチな業界で国内トップのシェアを誇り、かつ海外へも展開するナガノサイエンス株式会社。2代目社長がこれまでの事業拡大にあたり取り組んできた挑戦と、
今後の戦略を語る。
『安定性試験の「専門家」として、独自ポジションで事業を拡大』
――まず、ナガノサイエンスの事業概要について教えてください。
私たちは、医薬品の「安定性試験保存プロセス」のトータルサポートを行う企業です。安定性試験とは、湿度・温度・光といった様々な環境で、時間と共に変化する薬の品質を確認し、試験データに基づいて薬の有効期限や保存条件を決定するものです。
――1970年の創業当初から、医薬品の安定性試験を専門としていたのでしょうか?
創業したのは私の父で、当初は試薬瓶の収納庫や様々な産業分野向けの大型乾燥炉等が主力でした。その後、1980年代に入り、医薬品安定性試験へのこだわりが始まりました。 例えば、光安定性試験のガイドラインが制定されるのに合わせ、国内初の専用試験装置を開発したり、試験データの正確性への要求が高まるのに合わせ、データ収集システムを自社開発しました。さらに90年代からは、データに間違いがないことを証明する「バリデーション」に力を入れています。
――バリデーションとは聞き慣れない言葉ですが、具体的にどのようなことをするのでしょうか?
バリデーションとは、機器等の稼働適格性を継続的に検証する行為です。普通の機械は工場を出荷するときに品質テストを行い「〇年保証」と決めます。しかし、安定性試験では出荷後も定期的にその性能が保持されているかどうかを確認する必要があります。医薬品は人の健康・生命に関わるものであるので、その試験を行う機器等についても、常に適格に稼働していることを確認・証明する必要があります。
専門性を必要とされる行為のため、お客さま自身では手に余るケースもあります。しかし、当社なら機器の開発からバリデーションまで一括で引き受けることができる。それが、一般の機械メーカーとは異なるポジションを確立し、事業拡大につなげられた最たる要因だと思います。
『品質の重要性と異種業界の経験が、新たな選択と集中を生んだ』
――2代目社長として、これまでどんなことに注力されてきたのでしょうか?
一言でいえば「選択と集中」です。98年から事業に参画し、2000年に入って先ほどお話ししたバリデーションを武器にして、お客さまのより上流工程に関われるよう取り組んできました。
バリデーションは、「決められたことを実行する」という認識が一般的です。しかし実際には、複雑な業務プロセスの一つであり、「そもそもどうやるか?」という決定も求められます。
私が着目したのは、この付加価値の高い「どうやるかを決める=デザインする」という工程です。どうやるかの方法論を考える機能と能力を社内に確保できるように、試行錯誤を続けています。
――事業に参画される前も、同じような機械メーカーや医薬品の経験があったのですか?
いえ、新卒で入った会社は損害保険の業界です。損保業界を選んだのは、「リスク」という概念に興味を持っていたからです。
ちなみに大学時代は造船学を専攻し、研究では最適航路選択などのシミュレーションを主に担当しました。例えば、台風が来る情報があっても、設定する条件によって結果が変わります。予測と目的の相関関係をどう解釈するか、そんな話が好きだったんです。
――損害保険の業界から、なぜナガノサイエンスを継ぐことになったのでしょうか?
日本のモノづくりの品質が高く評価されていると知ったことが大きいですね。
損保会社では、法人営業に配属されました。その後、希望していた商品開発の部署に移り、半年間アメリカに研修で滞在しました。その中で「日本企業の強さとは何か」という問いと向き合うことになりました。
アメリカの金融業界ですから、会う人々全てが強烈で優秀です。そんななか、日本車が好きで「素晴らしい」と大絶賛する現地の声に出会ったんです。それを聞いたとき、日本人ならモノづくりで海外でも勝負ができると感じ入りました。父が創業したナガノサイエンスがやっていたことは、モノづくりの品質を守る機器を提供することです。まさに、モノづくりのこだわりを体現していたといえます。
事業に加わったのは、35歳のとき。明確な事業変革プランがあったわけではありません。ただ、「品質を守る部分で、損保業界で経験したソリューション営業を組み合わせられたら」と漠然と思っていました。
――現場に入ってみて、苦労はありましたか?
業界未経験だったので、最初は社内の関係性作りが大変でしたね。当時は職人系の人も多く、「上流工程」や「ソリューション営業」と言っても話が通じませんでした。
入社して1年くらい悶々としていましたが、ある日頼りにしていたパートナーの方が突然亡くなりまして。一人になってしまったから、これは本当に頑張らないと駄目だなと。危機感を抱き、腹をくくってビジネスに向き合うスイッチが入りました。
父は「好きにやったらいい」という感じでしたね。自由にやりすぎていると感じるときもありましたが、見守ってもらえたので感謝しています。
『国内は信頼関係で新たな価値を、海外へは圧倒的な販売力で勝負』
――医薬品の安定性試験の分野では国内トップのシェアを誇っていますが、今後どのような展望を描いていますか?
国内も海外も、まだまだやるべきことがあります。具体的には、お客さまたちをつなげるプラットフォームの開発です。安定性試験プロセスに関する情報提供のセミナーを、年に1度開催しています。国際学会の動向や関連ガイドラインの変更など、扱うテーマも幅広いです。
マイナーな分野ということもあり、お客さまは想像以上に孤独です。他社が何をやっているのか知りたいし、同じ仕事をしている人たちとのつながりを求めている。当社プラットフォーム上のセミナーやワークショップに参加したお客さまの満足度は高いですね。
――機械メーカーからはじまり、ソリューション営業を提供してきたナガノサイエンスならではの関わり方ですね。
深く業務に携って信頼関係があるからこそできることです。私たちは、お客さまとの「共創の場」を「プラットフォーム」と呼んでいます。
つながりがあるからこそ、新たなサービスやビジネスに膨らませられる。これは、当社が持つ他ではまねできない「知的資産」です。今後は同じような流れを、海外にも展開していく考えです。
――具体的に、どの国を強化するといった戦略はあるのでしょうか?
まず必要なのは、機器を売ることです。そのために、圧倒的に差別化を図れる新製品を開発しました。狙うは中国市場です。すでに販売能力に長けた人材を確保しています。スタートアップ企業を現地で立ち上げて、販売の方法は全て任せています。エネルギッシュに海外で展開していく予定です。
――大きな挑戦ですね。
構想から理屈を固めビジネスに昇華していくには、年単位の時間がかかります。長期の計画を三段構えで考えています。
一つは、現場の社員がPDCAを回してできる継続的な改善。次に、新しい戦略アプローチを考えること。そして最後に、まだ誰も考えついていない圧倒的な差別化を大きな投資で生み出すことです。
私たちの業界は製品のライフサイクルが長く、デジタル製品のように数カ月で変わるものではありません。そのため、新規の参入障壁が高く、長期目線で戦略を立てられます。お客さまにとっても切り替えのハードルが高いので、すでにネットワークを築いている私たちが有利な状況にありますね。
『変革を生み出すのは、できないことを実現する天才的なオタク』
――今後の戦略を実現するために、どんな人材を求めていますか?
独自の知的資産を生み出せる人材ですね。例えば、新しい計測の方法や、まだない顧客とマッチングする方法を考えられる人です。欲張りなことをいうと、知的でクリエーティビティーもあり、グローバルにも通用できる「誠実なオタク」ですね。
オタクというのは、何かをやりぬく人のことです。普通の人では変革を生み出すことはできません。私は、私にはできないことを実現できる、変わった人が好きなんです。当社は、真面目な土壌に変わった天才的なオタクがたくさんいますよ(笑)。
――学生の専攻は関係ありますか?
理系でしたら、とくにこれという専攻はないですね。自然科学系から社会科学系の学生まで、幅広く採用しています。ただ、分析が好きだったり、数学が好きだったり、基礎を身に付けている必要はありますね。
――最後に、ナガノサイエンスの魅力を教えてください。
世界で唯一のビジネスモデルであること。そして、ニッチな業界とはいえ国内トップの実力があること。さらに、お客さまとの直接的なつながり、いわゆるダイレクトソリューションが膨大にあり、CX(Customer Experience)を良くするチャンスにあふれていることですね。
私たちと一緒にやっていけば、世界で認められる価値を生み出すことができる、品質の高い医薬品を世界中に広めることに貢献できる、その信念を持って仕事に取り組んでいる人がたくさんいます。同じようにワクワクを感じる方と、一緒に働きたいですね。
※この記事は2022年9月ー2023年8月までラボベースで掲載されたインタビューページを再編集したものです。